研究ノート
STUDY NOTE
なるほど!がいっぱい
研究ノート
Vol.8
ブランド横断の
「『はたらくアタマに』シリーズを科学する!」
~研究開発担当者インタビュー~
飲むと仕事がはかどる!?
「はたらくアタマに」シリーズ
「コーヒー飲料の「ワンダ」や「カルピス」「ウェルチ」など、さまざまな飲料ブランドを横断して展開している「はたらくアタマに」シリーズは、「カルピス酸乳」の認知機能研究から生まれた機能性関与成分ラクトノナデカペプチドを配合した機能性表示食品です。
「はたらくアタマに」シリーズを飲むことで、ラクトノナデカペプチドが体の中でどのように作用し、「注意力の維持」と「計算作業の効率維持」の効果をもたらすのか? そのメカニズムを科学するとともに、ラクトノナデカペプチドの機能性の特定から約10年という月日を経て、製品化へとたどりついた研究者の思いを紹介します。


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INTERVIEW 01
脳への機能性を発見してから20年 「ラクトノナデカペプチド」を多くの人へ
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INTERVIEW 02
ブランド横断のシリーズ展開で頭を働かせて頑張るみんなに届け!
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INTERVIEW 03
脳の働きに良い効果あり 仕事の傍らに置きたい「ワンダ」
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INTERVIEW 04
おいしくなければ「ワンダ」じゃない!!素材の苦みと臭みをどうするか?
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RESEARCH SUMMARY
研究のまとめ
INTERVIEW 01
脳への機能性を発見してから20年
「ラクトノナデカペプチド」を多くの人へ


アサヒクオリティーアンド
イノベーションズ(株)
コアテクノロジー研究所
素材技術部
大澤 一仁
Q.「ラクトノナデカペプチド」って、何?
「ラクト」は「乳」、「ノナデカ」はラテン語で数の「19」、「ペプチド」はアミノ酸が2個以上つながったもののことを指します。アミノ酸が19個つながってできた乳由来の成分ということで、ラクトノナデカペプチドと称します。 商品に含まれている
ラクトノナデカペプチドは、カゼインタンパク質を食品用酵素で分解してつくられますが、元々は「カルピス」を製造する過程の一次発酵でつくられる「カルピス酸乳」の中から発見された成分です。
1970年代に、昔から“体にいい”と言われていた「カルピス」の健康機能を科学で解き明かす動きが加速しました。その研究の中で、「カルピス酸乳」には、学習記憶力によい効果をもたらす機能があることが判明し、「カルピス酸乳」の中のどの成分に機能性があるのかを特定する研究の結果、ラクトノナデカペプチドにたどり着きました。
Q.「ラクトノナデカペプチド」は、体の中でどう働くの??
ラクトノナデカペプチドは、脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンや、脳の栄養である脳由来神経栄養因子(BDNF)の遺伝子発現量を増やす効果が明らかになっています。アセチルコリンは、脳で情報のやりとりをする時に使われる物質であり、BDNFは、神経細胞の成長・維持、保護に関わっていると考えられています。そして、これらの物質が相互的に働くことで、脳を活性化すると考えられています。




このようなメカニズムにより、ラクトノナデカペプチドを摂取することで、年齢とともに低下する認知機能の一つである「注意力の維持」と「計算作業の効率維持」の効果が期待できることが、中高年を対象としたヒト試験の「アーバンス神経心理テスト」と「内田クレペリン検査」で評価した研究結果から分かってきました。
これらの研究で改善が認められた機能と同じような脳の働きが必要とされる場面として、例えば、レシートを見ながら数字を入力していく、インターネットで情報を調べながら資料をまとめるなど、単純作業を正確に行うといったことが仕事中にもあることでしょう。ラクトノナデカペプチド飲料を継続して飲んでいただくことで、そのような作業の効率維持が期待されます。


Q. 2019年の発売に至るまで、20年以上の年月がかかったのはどうして??
研究のきっかけは1970年代の「カルピス酸乳」の機能性研究にさかのぼりますが、2008年頃に本格的に研究をスタートするまでの間は、他の機能性成分の研究が優先的に進められていて、手つかずでした。その頃、世間的に「脳の活性化」のニーズが高まってきたこともあり、研究をスタート。まずは、1990年代に共同研究をしていた先生に会いに行って、お話を伺うところから始めました。
発売に至るまでの研究には約10年かかりました。まず初めに、乳酸菌の力でつくり出される「カルピス酸乳」の中のどの成分に、認知機能への効果があるのかを調べました。「カルピス酸乳」をいくつかの成分に分けて効果を検証し、機能性がある成分をさらに分けていくことで、ペプチドに効果があることが分かりました。さらに、どのペプチドに効果があるのかを調べたところ、ようやくラクトノナデカペプチドにたどり着いたのです。また、10年のうちの終盤は、機能性を検証するため、先述したようなヒトでの効果検証を重ねて論文を発表してきました。
私は、入社してからずっとカラダに良い商品をつくりたいと考えていました。今回、一から商品の開発に関わり、多くの方の手に届きやすい商品シリーズになったことを本当に嬉しく思っています。

INTERVIEW 02
ブランド横断のシリーズ展開で
頭を働かせて頑張るみんなに届け!


アサヒ飲料(株)
マーケティング本部
健康戦略部
宮本 菜々子
Q. 「はたらくアタマに」シリーズにかけた思い?
アサヒ飲料は今、健康に強い会社になるということを目標に掲げています。そこで、お客様により効果的に健康への取組をお伝えするために、当社が保有しているブランドの力を集約して取り組めるように、マーケティング本部の中に健康戦略部を昨年(2018年)立ち上げました。

「はたらくアタマに」シリーズは、日常的に何気なく飲んでいる飲料で、頭の働きをサポートする成分を摂れるのが魅力です。飲用シーンを選ばず、幅広く多くの方に気軽に飲んでもらえるように、「ワンダ」「カルピス」「ウェルチ」などの主力ブランドに、抹茶ラテと機能性を前面に打ち出した100mlの乳性飲料を加えた、計5商品をラインアップしています。

今年(2019年)の4月1日から、「働き方改革関連法」が順次施行され、生産性向上などへの関心が社会的に高まっています。飲料から「働き方を変えてみませんか?」というアプローチはこれまでは、ほとんどありませんでした。でも、シャキッとしたいときにコーヒーを飲んだり、頭が疲れているときに甘いものを飲んだり、リフレッシュしたいときに炭酸を飲んだりするなど、「飲み物」が本来持っている価値には、頭に寄り添う部分があるのではないかと感じていました。そこで、飲み物自体が持つ価値に、付加価値としてラクトノナデカペプチドを配合することで、より価値の高い飲料をお客様に届けたいと思いました。
Q. 「はたらくアタマに」シリーズ共通のロゴデザインは?


パッケージのデザインをシリーズで統一することで、お客様に商品の特徴が伝わりやすくなります。しかし、この面のみを考えてしまうと、各ブランドが築き上げてきた価値を損ねてしまうことにもなりかねません。そこで、各ブランドの価値を守りつつ、シリーズとして統一感を持たせられるよう、各ブランドの担当者とともにデザインを考えていきました。その結果、共通のロゴを正面ブランド名の上部に配置し、背面に機能性を明記することにしました。
正面に機能性の表示をするという案もありましたが、事前調査でのお客様の声に「デスクの上に置くときなどに、機能性が周囲から分かってしまうと、少し恥ずかしい」という意見もあり、日ごろ飲んでいるものの延長として手軽に手に取ってもらえるよう、背面に落ち着きました。


Q.ラインアップとして、5カテゴリーが選ばれた理由は?
今回選んだ5つのカテゴリーは、「頭を使うシーン」との親和性の高いものです。まずは、今回の5商品を育てることに注力していきますが、今後も「頭を使うシーン」を念頭に置いて、他のブランドのラインアップなども含め、商品展開を考えていきたいと思っています。
その際に、重要なポイントになるのが「味」だと思っています。ラクトノナデカペプチドは、実は苦みが強い成分で、初めてなめた時、あまりの苦みに面くらいました。その次に、さまざまな既存飲料に混ぜて飲んでみましたが、とてもおいしいとは言えないもので(笑) でも、安心してください。
発売する5つの商品は、飲料メーカーとして自信を持って提供できる、おいしい飲み物に仕上がっています。

INTERVIEW 03
脳の働きに良い効果あり
仕事の傍らに置きたい「ワンダ」


アサヒ飲料(株)
マーケティング本部
マーケティング一部
井田 裕典
Q.機能性をうたったコーヒーは市場で苦戦する?
「はたらくアタマに」シリーズの一つとして、新しい「ワンダ」を開発することになりました。そもそもコーヒーは嗜好性が高い飲料で、健康への機能性を求めて手にとるのではなく、ホッとしたい、目を覚ましてシャキッとしたいなどの理由で飲まれることが多いものです。そのため、これまでにも機能性をうたった商品が市場に複数投入されていましたが、多くの商品が苦戦していました。でも、今回の「注意力の維持」と「計算作業の効率維持」という機能性は、コーヒーが飲まれるシーンとの親和性が高く、可能性を感じながら開発をスタートしました。
「働き方改革」の文脈で生産性向上が求められていますが、急に仕事のスタイルやモチベーションを変えることは難しいものです。でも、普段飲んでいるコーヒーを、今回の「『ワンダ』はたらくアタマに アシストブラック」に切り替えることは、簡単にできるかと思います。そういうストーリーを描いて、商品開発を進めていきました。
Q.コーヒーの苦みと「ラクトノナデカペプチド」の苦みは違う??

ラクトノナデカペプチドの苦みは、コーヒーの苦みとは異なるものです。そのため、独特な苦みはうまく隠せるよう味を設計していますが、それ以上に苦みをポジティブに捉え、エスプレッソをブレンドしてトータルとしての苦みは立たせています。「注意力の維持」と「計算作業の効率維持」という効果は、飲んだ直後に明確に感じられるものではありません。そんな中で、機能性を感じてもらうためには、どうしたらいいのか?その答えの一つが「苦みがあるから、なんだか効いている気がする」といった様に、気持ち的に効果を感じてもらうというものでした。
Q.ブラックコーヒーなのに、乳成分を含むのはどうして?
ブラックコーヒーなので、もちろん「牛乳などの乳製品」は含みません。しかし、ラクトノナデカペプチドが乳由来の成分であるため、アレルギーへの影響を考慮して、パッケージに分かりやすく表示しています。消費者の安全を確保するため、伝えるべき情報はしっかりと伝えることが、最も大切なことです。乳成分を含む表示がありますが、カフェラテではなく、味は完全にブラックコーヒーです。
また、パッケージの正面には、「注意力の維持」と「計算作業の効率維持」をイメージさせるようなイラストを配置しました。どのようなシーンで飲むのが適しているか、パッと見で分かるようにする工夫です。
今回は、機能性のあるコーヒーということで、かなりのチャレンジでした。シリーズが定着し、仕事の傍らにあるという状況が定着していくと嬉しいです。

INTERVIEW 04
おいしくなければ「ワンダ」じゃない!!
素材の苦みと臭みをどうするか?」


アサヒ飲料(株)
研究開発本部
商品開発研究所
山本 進太郎
Q. 苦い「ラクトノナデカペプチド」を、どうやっておいしい飲料に?
「『ワンダ』はたらくアタマに アシストブラック」の味づくりを担当しました。最初にラクトノナデカペプチドをなめた時、確かに苦いと感じましたが、それよりもペプチド特有の臭みが気になりました。とりあえず、1回つくってみないと分からないと思い、ラクトノナデカペプチドを単純に入れたワンダを試作。味見をしてみると、確かに苦いが、コーヒーの苦みが合わさり、特有の苦みは思ったほど気になりませんでした。しかし、やはり気になったのが臭みです。研究者としてのクセで、味見の際に、素材を舌で探してしまうという面もあります。そこでお客様の声を聞いてみたところ、「雑味を感じる」という評価が出ました。おろらく、特有の臭みが雑味として感じ取られていたのだと思います。そこで、臭みをなくす工夫を重ねました。
Q.具体的にどのような工夫で雑味を消したのか?

第一にコーヒー豆の選定の工夫です。ワンダらしいおいしさを保つために、ワンダのブレンドを基本とし、より複雑味が出る豆の配合にすることで臭みを感じにくくしています。さらに臭みを消すために焙煎も工夫しています。数えきれないほどのブレンドや焙煎を試して、今回の商品の味に至っています。
味を定めること以上に苦労したのが、機能性を担保することです。ラクトノナデカペプチドは熱に弱く、また徐々に減っていく特徴を持っています。製造時の熱殺菌や時間の経過によって減少することを踏まえ、機能性を保てる量のラクトノナデカペプチドを入れています。入れすぎると、味への影響も大きくなってしまうため、機能性と味のバランスを定めるのに苦労しました。
Q.苦労の末に完成した商品への思いは?
「『ワンダ』はたらくアタマに アシストブラック」は、ラクトノナデカペプチドの機能性と、コーヒーのカフェインや味(苦み)が持つ覚醒効果などが一体となった飲料になっています。 ラクトノナデカペプチドは大きな可能性のある素材だと感じています。今回の「はたらくアタマに」シリーズのように、機能性成分の素材をこれだけ多くのカテゴリーで展開することは珍しく、それぞれのカテゴリーの担当者が試行錯誤を重ねて、全員でシリーズをつくり上げていきました。多くの方が、各々のタイミングと色々な気分で手に取り、試してほしいと思います。

RESEARCH SUMMARY
研究のまとめ
今回の「はたらくアタマに」シリーズのスタートとなっている発酵乳の研究やラクトノナデカペプチドの素材としての基礎研究は、複数の担当者が長い年月をかけて取り組んできたことです。関わってきた多くの方の思いも受けて、つくりあげました。仕事シーンを中心に、「注意力の維持」と「計算作業の効率維持」という機能性のニーズは、今後も高まっていくことでしょう。それらの機能性成分を肩肘張らずに手軽に摂ることができる、「はたらくアタマに」シリーズを通じて、社会で高まるニーズに応えていきます。 さらに、年齢とともに減少する脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンや、脳の栄養である脳由来神経栄養因子(BDNF)の遺伝子発現量を増加させる働きがあるラクトノナデカペプチドの研究は、日本のみならずグローバルで進む超高齢化社会に大きく貢献できる可能性も秘めていると考えています。今後も研究開発を精力的に進めていきます。

注)組織名、商品名、商品画像は取材時のものです
RESEARCH LIBRARY
研究ノート ライブラリー
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Vol.9 「ワンダ」の飲用前後での気持ちの変化を科学する! ~ 研究開発担当者インタビュー ~
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Vol.8 ブランド横断の「はたらくアタマに」シリーズを科学する! ~ 研究開発担当者インタビュー ~
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Vol.7 100周年を迎える「カルピス」を科学する! ~ 研究開発担当者インタビュー ~
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Vol.6 3つの機能を持つ新たな「十六茶」を科学する! ~ 研究開発担当者インタビュー ~
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Vol.5 気持ちを科学する! ~ 研究開発担当者インタビュー ~
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Vol.4 乳酸菌を科学する! ~ 研究開発担当者インタビュー ~
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Vol.3 世界初の技術を活用した
乳酸菌飲料開発~ 研究開発担当者インタビュー ~ -
Vol.2 微生物の制御技術
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Vol.1 べにふうきの機能性研究