TOP INTERVIEW

目指す未来につながる新たな価値を創造し、
「社会でいちばん信頼される企業」で
あり続けるために

アサヒ飲料株式会社
代表取締役社長米女 太一Taichi Yoneme

学校法人大学院大学至善館教授/
NPO法人NELIS代表理事ピーター・D・
ピーダーセン氏
Peter David Pedersen

アサヒ飲料ビジョン
社会の新たな価値を創造し、
我々の「つなげる力」で発展させ、
いちばん信頼される企業となる
社会との約束
100年のワクワクと笑顔を。

人生100年時代を共に。
あなたのココロとカラダに
驚きや感動、そして、健康をお届けしたい。
いつも、そばに。
これからも、ずっと笑顔を。

ブレーキのかからない気候変動、予期しない感染症、グローバル経済の加速。
先行きの予測が困難な時代において、アサヒ飲料が事業を通じてどのように新たな価値を創造し、社会からいちばん信頼される企業であるために大切なものは何か。
長年にわたって日本企業のサステナビリティ活動とかかわりをもち、
“レジリエント・カンパニー”の提唱者であるピーター・D・ピーダーセン氏をお招きして
「しなやかで強い企業」を目指す当社代表取締役社長の米女太一と対談を行いました。

※危機に直面したときのストレス耐性や回復力が高く、事業環境の変化に柔軟に対応、その中から次の成長の機会を見出し、社会に貢献している企業を示す言葉

ピーター・D・ピーダーセン氏 略歴
1967年デンマーク生まれ。コペンハーゲン大学文化人類学部卒業。日本在住20余年。日本を代表する大手企業の事業・環境・CSR戦略、コミュニケーション・マーケティング調査、人材育成などに携わり、2002年には、LOHASなどの新たなコンセプトを米国より日本に紹介し、日本初のLOHASマーケティング調査を複数年実施。『レジリエント・カンパニー』をはじめとする著書も多数。

CSVの考え方と経営戦略とのかかわり

飲みものを通じて人々が笑顔になる社会をつくる

ピーダーセン:アサヒ飲料は、企業としての持続的成長の中でCSVをどのように位置づけて取り組んでいますか?

米女:まずアサヒグループ全体の理念である『Asahi Group Philosophy(AGP)』で掲げている「期待を超えるおいしさ」と「楽しい生活文化の創造」という2つの果たすべきミッションがあります。このミッションを受けて、アサヒ飲料では「社会の新たな価値を創造し、我々の『つなげる力』で発展させ、いちばん信頼される企業となる」というビジョン、そして「100年のワクワクと笑顔を。」というお客様との約束を掲げています。そのビジョンを実現するために、『健康』『環境』『地域共創』という3つのマテリアリティを設定し、CSVにおいても重点課題領域と位置づけ取り組んでいます。私たちの商品を通じて、人々が笑顔になる社会をつくることがアサヒ飲料としての役割であり、また、マテリアリティに取り組むことがSDGsの貢献にもつながると考えています。

ピーダーセン:私が最も興味をひかれたのは「つなげる力」という言葉でした。この「つなげる力」には、どのような想いが込められているのでしょうか?

米女:「三ツ矢」や「カルピス」、「ウィルキンソン」といった100年ブランドをつくりあげたときのスピリッツをそのまま継承するとともに、時代に応じた価値を付加してお客様にお届けすることが、我々がもつ「つなげる力」のひとつです。新しい価値を付加しながらもブランドへの変わらない想いをずっと「つないで」きたこと、そして、その結晶である当社の商品を日本全国、さらには世界中にお届けしたい、おいしさと健康の輪を「つないで」いきたい。そのような想いを込めています。

ピーダーセン:私はまさにCSVやサステナビリティを「時代を越えたつながり」であり「命のリレー」であると考えています。「つなげる力」とは、この考え方と一致する言葉だと感じました。「命をつなぐ」ことこそ、サステナビリティで最も問われている概念なのではないかという気がしています。

米女:これからは、社会に存在するさまざまな課題を解決に導き、社会的価値を創出できる会社こそ存在する意義があり、社会的価値の創造が企業存立の大前提であるという時代が来ると思っています。社会的な価値の中から財務的な価値を見出していくことが、CSVそのものではないかという考えです。
1年前、社長に就任した際に私は「さらなるブランド価値の向上」「新しい価値の創出」「しなやかで強い経営基盤の確立」という3つの方針を打ち出しました。社会や経済がどのように変化してもぶれることなく、財務的価値と社会的価値を一体化させしっかりと新しい価値を生みだしていく会社でありたいと考えています。

ピーダーセン:社会的価値は非財務的価値とも言いますね。私は、この業界にいながら「財務的価値」「非財務的価値」と分けて言うことに違和感をもっています。なぜなら現在「非財務的価値」と呼ばれているものも、将来的に「財務的価値」にならなければ意味がないからです。CSVも、それが将来の財務的価値を後押しするものであるかが重要です。
現在の社会的価値の創造が将来の財務的価値を生み出すという意味では、SDGsの目標達成へ貢献することが事業の成長にもつながるという考え方もあります。CSVを通じたSDGsへの貢献については、どうお考えですか?

米女:アサヒグループでは、マテリアリティ特定においてSDGsを社会課題抽出の観点のひとつとして捉えています。AGPの実現に向けてサステナビリティの側面から必要なことは何か、という視点を重視し、SDGsの17のゴールに対して、アサヒグループのマテリアリティ『環境』『人』『コミュニティ』『健康』『責任ある飲酒』を通じて貢献できる12のゴールを定めています。
アサヒ飲料としても、それに包含される形で『健康』『環境』『地域共創』という3つのマテリアリティをこれからの価値創造の軸に据え、マテリアリティに取り組むことがSDGsの貢献にもつながるという考えです。
また、社内に目を向けてみると、SDGsの目標達成に資するよう事業を展開していくことが将来の財務的価値を生みだしていく、SDGsはそういう取り組みであるという認識が根付いてきたと感じています。

3つのマテリアリティを軸に、社会にワクワクと笑顔を届ける

ピーダーセン:先ほど「3つのマテリアリティに取り組むことがSDGsの貢献につながる」とおっしゃいましたが、具体的にはどのような活動をされていますか? 3つの中でも『健康』には特に力を入れられていると思いますが。

米女:私たちの商品やサービスを通じてお客様の日常に寄り添い、毎日の生活リズムを整えココロとカラダの健やかさを生みだすサポートをしていく。それが当社が推進する『健康』のイメージです。
私たちは、世の中に「健康」という価値を届けることを目指していますが、その活動を担う社員自身がまず健康になり、私たちが社会とつながっていくことで、社会全体を健康にしたいと考えています。これまで「自分も、会社も、世の中も健康に」というスローガンを掲げ、取り組みを進めてきましたが、2021年からは「新しい日常の生活リズムを整え、ココロとカラダの健やかな毎日を生みだし“笑顔”を広げていく」を活動コンセプトに取り組みを強化しています。以前から社員の健康増進の一環として、スポーツ庁が推奨する「FUN+WALK」への参加やスニーカー通勤を推奨するなど、「歩く」ことに力をいれてきましたが、さらに社会課題への貢献に発展させていきます。「自分」「会社」から「世の中」に広げていくための施策として、社員の歩数に応じた当社の飲料を社会に還元する「Walk for a smile」という活動をスタートさせました。具体的には、「歩く」ことを通じて健康推進活動を行っている団体などが実施するウォーキングイベント参加者に当社商品を提供する予定です。今後もこの取り組みを発展させ、社会に対して「健康」を目に見える形で還元していきたいと思っています。

ピーダーセン:それはいいアイディアですね。あと、健康面でいえば、日本は高齢化が進むとともに社会医療費の増大が社会課題となっています。アサヒ飲料では、「未病」というテーマの取り組みも行っているとお聞きしました。

米女:はい。病気の一歩手前の状態を「未病」といいますが、病気になる前にカラダをケアし、より健康な状態に近づけていくことが大切だと考えられています。
当社では、神奈川県の「未病プロジェクト」の啓発支援を行っています。これは神奈川県の掲げている「未病の改善」の取り組みと、「アサヒ 十六茶」の開発コンセプトであるカラダ全体のバランスを重視する東洋健康思想が合致することから始まったもので、未病のマークをラッピングした自動販売機を設置するなど、神奈川県と共同で未病啓発に取り組んでいます。
「未病の改善」も日常の生活リズムを整えるという考え方と通じています。医療費問題の解決には、できるだけ医療機関にかかることなく健康でいることが大事だと思います。その意味で、私たちの「日常に寄り添う」という想いと軌を一にしているわけです。

ピーダーセン:日常における健康維持に関しては、さまざまな科学的分析もされているようですが、それはかなり本格的なものですか?

米女:当社の場合、「カルピス」に由来する乳酸菌研究を長年続けてきたことが土台にあります。これまでの研究成果の中からさまざまな健康飲料を上市していますが、腸内環境を整えるだけでなく、例えば心理的なストレスを和らげ、睡眠の質(眠りの深さ)を高めるのに役立つ機能がある乳酸菌、体脂肪を減らす機能が期待できる乳酸菌など、さまざまな乳酸菌の研究を進めています。

ピーダーセン:3つのマテリアリティの中でも、『健康』への取り組みが最もアサヒ飲料らしいと思います。QOLの向上をはじめ予防医学にもつながる未病へのアプローチなどたいへん興味深い形で取り組まれていると思います。CSVとして意味ある成長(ミーニングフル・イノベーション)がたくさん起こせそうな印象をもちました。
あと、世の中全体を健康にするために自分たちが率先して健康になるという考え方も興味深いですね。例えば「LOHAS」という言葉が一世を風靡した背景には、最初に見直すべき部分を『健康』としたことが影響しています。英語で略さず言えば「Lifestyle of Health and Sustainability」ですから、Sustainability よりもHealthが先にきている。誰でも「自分ごと」でないものは興味がもちにくいので、まずは自分や家族の健康が第一、そう思うと自分も取り組みやすいし、周囲にも広めやすい。しかし結局は、その想いが集まると大きなうねりになって社会全体が良くなる。これが「LOHAS」の目指すところだと思っています。
では、引き続き『環境』のお話も伺いたいと思います。環境問題も依然として大きな社会課題であるわけですが、アサヒ飲料が最も力を入れている取り組みはなんですか?

米女:私たちにとってはじまりの商品である「三ツ矢サイダー」の主原料が地下からくみ上げた天然鉱泉ですから、もともと自然の恵みなくしては成り立たないビジネスであると自覚しています。特に意識しなくても、自然のサステナビリティを大切にするスピリッツが我々の中にあると思っています。
世界的な環境課題であるカーボンニュートラルの実現や循環型社会の形成、海洋プラスチックごみ問題など幅広く取り組んでいますが、いま最も力を入れているのは、PETボトルのリサイクルです。
リサイクル率を上げるためには、最も上流から回収することが大切ですので、生産者の側でもPETボトルを回収するしくみを構築しています。そして回収されたPET素材を生かした製品をメーカーがリサイクルPETボトルとして商品化し、サーキュラーエコノミー化していくことが必要だと思っています。プラスチックのリサイクルは、再び同じ素材に戻すマテリアルリサイクルとエネルギーに還元するサーマルリサイクルが主流ですが、化学的なプロセスで不純物を取り除くケミカルリサイクルという技術が新たに注目されています。当社は、このケミカルリサイクル技術の研究開発を進めるベンチャー企業などに投資して、リサイクルPETボトルを作ることにチャレンジしています。もちろん並行してマテリアルリサイクルも進め、プラスチック製容器包装の全重量の60%をリサイクルボトルか環境配慮素材に替えることを目標に掲げています。
リデュース(省資源)では、「ラベルレスボトル」商品を他社に先駆けて発売しています。この商品は、PETボトルからラベルをなくし、記載しなければならない商品情報を個々のラベルではなく外箱に一括で記載したケース販売専用商品です。ラベルを無くしたことで、これまでラベルで使用していたプラスチックを約90%削減していますが、この商品が多くのお客様に受け入れられており、販売量を増やしています。

その他、プラスチックの使用量を減らす取り組みとしては、例えばプラスチック以外の素材を使った容器なども我々の考えるべき範疇であると思っていますし、実際にそのような技術開発にも着手しています。

ピーダーセン:私が20数年この業界にいて「これはもう世界のデファクトスタンダードになっている」と感じているものがあり、ひとつは資源のサーキュラー化ですね。もうひとつが脱炭素化、それからネットゼロ伐採、あるいは生態系修復への貢献、そして水源を枯渇させない水ニュートラルです。こうした領域は、企業にとってほぼデファクトスタンダードになってきていると思います。資源のサーキュラー化以外に、なにか注力されていることはありますか?

米女:工場で発生する温室効果ガスを回収して再利用することには、かなり以前から取り組んできました。また、2020年からは、物流の効率化によるCO₂排出量削減のため、他の企業の商品と混載した配送を始めました。当社の商品は飲料ですから重いので、トラックで運ぶ際に何段も重ねることができません。そこで、日清食品様と共同配送という形で下段に当社の飲料、上段に日清食品様の即席麺商品を重ねて、物流の効率化を図ることで、CO₂排出量を削減します。リサイクルPETボトルは原油由来のPETボトルと比較してCO₂排出量が56%~63%削減できます。リサイクルPETボトルの使用量を増やすこと自体がCO₂排出量削減にも貢献しています。

ピーダーセン:資源問題を中心に先進的な取り組みをされていますね。ただ、サステナビリティやCSVの分野でも「あくなきイノベーション」が必要とされていて、最近では「脱炭素」のように究極目標は「環境負荷ゼロ」という考え方も広まってきました。
アサヒ飲料でも将来的な目標として「環境負荷ゼロ」を掲げ、さらにはアサヒ飲料が存在することで水源環境が改善され、森林面積が増えるというレベルを目指していただきたいと思います。それが「リジェネレーション(再生・新生)」という新しい潮流で、欧米ではすでに持続可能性に留まらず、その先に「環境を再生する」ことまで考える動きが急速に広がっています。環境の分野でアサヒ飲料に期待したいことは、「リジェネレーション」や「リレストレーション」という最先端の考え方や技術を取り入れ、21世紀の半ばには環境負荷ゼロで操業ができる体制を構築していただきたいということです。これは、短期思考で考えればコストに見えるのですが、長期思考を取り入れることで可能性が開けてくると思います。

米女:おっしゃるように、さまざまな変化が押し寄せてくる中でも、長期的かつ俯瞰的に見れば、それが最終的なビジョン達成に近づいていくのかもしれません。広い視野をもって長期的に達成すべき目標を頭の中に置いておくのと、置いておかないのでは、取り掛かるべきことも変わってくると思います。

ピーダーセン:3年でやろうとすると社員にも会社にもストレスを生むだけかもしれません。やはり、10年や30年という長期視点をもって取り組むことが大事だと思います。今の時代は、企業としてのミッションだけではなく、それを超えた社会のミッションに目を向けるべきで、それが社員のモチベーションにもつながるはずです。

米女:確かに、「こういう世界を目指す」「こういう社会をつくる」という大きなビジョンを描くことがとても重要だと思います。未来像を社員と共有し、自分たちの取り組みが社会課題解決にも貢献できる価値を生みだすということを伝えていきたいと考えています。

ピーダーセン:そうですね。マテリアリティは必ずしも未来像ではなく、むしろ直近で取り組むべき課題という意味合いの方が強いと思います。社会の未来像を共有するという意味では、『地域共創』も非常に重要なテーマになってきますね。

米女:アサヒ飲料の『地域共創』では、それぞれの事業場が所在地の自治体などと連携し、さまざまなコラボレーションを行っています。特に多いのは、やはり『健康』に貢献する施策ですね。当社ならではの健康価値を地域の皆様に提供する取り組みを展開し、将来にわたり健康で明るい社会の実現を目指しています。『地域共創』を単体で考えるのではなく、『健康』×『地域共創』、『環境』×『地域共創』など、他のマテリアリティと掛け合わせて、新しい価値を創造することがアサヒ飲料独自の強みだと考えています。
さらに『地域共創』のシンボリックな活動としては、「こども食堂」への支援もあります。3月28日の「三ツ矢」の日、7月7日の「カルピス」の誕生日に関連する売上の一部を「こども食堂」に寄付しています。コロナ禍の緊急支援では、アサヒグループとして「カルピス」や「カルピスウォーター」など当社商品やグループ会社商品の寄贈も行いました。

ピーダーセン:「こども食堂」関連の取り組みには、とても好感をもちました。SDGsの17目標が掲げている社会課題に「子どもの貧困」もありますから、社会的な意義は大きいと思います。ここまでのお話で、マテリアリティの3分野ではとてもよい取り組みをされていると感じました。私からなにか提言できるとすれば、やはり「将来像」を明確にすることかもしれません。それは、社外向けというよりは、むしろ社員に対してですね。自分たちのイノベーションが未来の社会を創造していると実感できることが、個人のモチベーションを高める最も強いドライバーだと思います。そして一人ひとりのモチベーションが高ければ、イノベーションも生まれやすくなる。そういう好循環も期待できるはずです。

米女:私のポリシーとしても、会社の経営者は組織の将来像をしっかり描くことが大事だと思っていますし、その将来像を社員全員で共有することがそれ以上に重要だと認識しています。財務的価値と社会的価値を一体化させ、新しい価値を生み続けていくこと、それに向けて達成像を見据えて今できることを実際の行動に移していくことが大切で、こうした考え方を社員と共有していきたいと改めて思いました。

ピーダーセン:最近よく使われる言葉に「バックキャスティング」がありますが、私は「バックキャスティングか、フォアキャスティングか」という二者択一ではないと考えていて、バックキャスティングという未来の条件設定から振り返って、自社のコンピタンスや強み、歴史などのフォアキャスティング要素が出会うゾーン。ここで、新たなイノベーションが起り得るのだと。どちらを切り捨ててもイノベーションは起きないと考えています。

予測困難な時代における企業のレジリエンスとは

変化を成長の起点とし、しなやかさをもった組織に

ピーダーセン:現在、企業を取り巻く環境の変化が加速していて予測を立てることが非常に困難になっています。しかも、環境問題による制約条件やステークホルダーからの期待も大きく変化しています。こうした時代においては、固定化された戦略よりも柔軟でしなやかな対応力が必要となります。私は「企業」という人間集団において、拠り所となる理念、自己変革力、社会性という3つの特性を高いレベルに維持することができれば、変化や不確実性を恐れずに進むことができるだけでなく、いざというときに高い復元力を発揮できると考えていて、そういうポテンシャルをもった企業を「レジリエント・カンパニー」と呼んでいます。
先ほど、社長就任時に方針として「しなやかで強い経営基盤の確立」とおっしゃったと伺いましたが、それはどういう背景があったのでしょうか?「しなやかで強い企業」というのは、この「レジリエント・カンパニー」に通じるものを感じました。

※レジリエンス(resilience/名詞)・レジリエント(resilient/形容詞)
強靭さ、回復力、立ち直る力、復活力、変化に対応する能力などを意味する英語表現

米女:企業活動を継続するうえで、予期し得ぬ困難や不確実性に直面することは当たり前のことで、その際に「想定外の変化」を言い訳にしては、社会との約束を果たしていないのではないか。どのような状況であっても、企業は社会と約束したことをきちんと全うすべきで、そのためにはまず、変化に耐えられるしなやかさをもった組織でなければならない。「しなやかで強い経営」はそういう想いから生まれた言葉です。変化を変化として見るだけではなく、むしろ成長の起点にするという発想ができれば、いつ大きな変化に直面しても、それを成長に変えられるだろうと考えています。アサヒ飲料ビジョンの最後の一文である「社会からいちばん信頼される企業となる」という言葉には、そういう意味を込めています。

ピーダーセン:それは、とてもすばらしい着眼点をおもちですね。私は、社会とともに発展できる組織には「Anchoring(拠り所となる理念)」「Adaptiveness(自己変革力)」「Alignment(社会性)」という3つの原則があると考えています。
「Anchoring(アンカリング)」は束ねる力や求心力という意味ですが、「ココロのマネジメント」という意味合いもあり、これが優れている企業は激動の時代においてもしっかり碇を下ろしている組織と言えます。「アンカリング」は、さまざまな分析ツールでも使われているのですが、いちばんの拠り所になるのが「信頼」です。社会からの信頼に加え、社内における上下関係の信頼なども「アンカリング」の礎になります。お互いに信頼関係があってこそビジョンやミッション、価値創造などが共有され活きてくるわけです。
2つ目が「自己変革力」。「みずから変わり続けることができる組織」と言うのは簡単ですが、実際はすごく難しいことです。それはなぜかと言えば、企業はどうしても過去の成功モデルに囚われてしまうからなんですね。成功事例を繰り返さないとキャッシュフローが生まれないので、それは仕方がないことなのですが、過去の成功モデルが新しいイノベーションの歯止めとなってしまうことも多々あります。
3つ目は、「社会や未来の要請とのアラインメント」で、「社会に対する誠実さ」と言うと分かりやすいかもしれません。この「アラインメント」に長けた組織でなければ、「強くてしなやかな組織」になれないだろうと考えています。
この3つが高いレベルにある会社は、社内の雰囲気が明るく、業績も好調。分析をするとそういう会社が多いことが数字にも現れています。

米女:「自己変革力」という意味では、この1年がコロナ禍だったこともあり、売れ筋商品も大きく変化しました。その中で、社会の変化について社員みずからが考え、変化に合わせて自分たちも変わろうという声が社員の中から出てきています。生産体制もサプライチェーンマネジメントも目に見えて変わりました。社員が自主的に話し合う機会が増えたことは、コロナ禍における大きな収穫だと考えています。しかも、リモートワークでは、一人ひとりが自律的に判断しなければいけない機会が増えるので、それぞれが責任をもって判断をするようになり、それが人の成長につながることも見えてきました。

ピーダーセン:主体性や自発性は「自己変革力」のベースになります。そして部門の壁や社内外の壁を越える風通しの良さも重要ですね。情報がスムーズに共有され、現場の意見が尊重されるなど、通気性が高い組織であることは、強靭でしなやかな組織への第一歩と言えるでしょう。これは「自己変革力」だけではなく、社会との信頼構築においてもかなり重要な要素です。
私は、レジリエンスを「マネジメント領域のイノベーション」であると考えています。イノベーションの多くはテクノロジーの領域で発現されますが、それ以上に大事なのは、組織の運用や運営などマネジメント領域のイノベーションです。企業の役職にある人は「マネジメント・イノベーター」であるべきだと思っています。
アサヒ飲料では、このマネジメント領域のイノベーションはいかがですか?新型コロナという大きな不確実性に直面し、長期課題としてサステナビリティが求められる時代に、経営者である米女社長の想いとしては、それらが重荷になっていますか? それともイノベーションへチャレンジする機会として捉えていますか?

米女:この状況は、ネガティブな変化ばかりではなく、地球環境へのさらなる関心の高まりやテレワークなど働き方の多様化を一気に進める機会にもつながりました。私自身は、さまざまなことが良い方向へも変化できるチャンスだと捉えています。組織のマネジメントはもちろん、ビジネス手法や意思決定の仕方もそうなのですが、状況に合わせてまとめて変革できる組織は、推進力に長けた組織ではないかと思います。一方で、これまで脈々と継承してきたアサヒ飲料のスピリッツは、変わることなくもち続けたいと思います。

ピーダーセン:その精神をおもちであるということは、アサヒ飲料の今後が楽しみです。

米女:特に働き方改革は加速度的に進んでいます。単に感染機会を避けるだけではなく、社員一人ひとりが最もやり易く、最もポテンシャルを発揮できるスタイルで仕事をする、という考え方に変わってきました。この先、新型コロナウイルスが収束しても、生活やビジネスが完全に元通りに戻ることはないと見ています。逆に、健康への意識、自分が住んでいる地域への愛着、地球環境の大切さなどを改めて感じた時期だと思いますので、これらに対する感度はますます高まってくるでしょう。今まで忘れていた大切なものが見直される、そのような世界に変えることもできる機会であると思っています。その中で、私たちアサヒ飲料がどのようにビジネスのかじ取りをしていくか、それが非常に重要なことだと気を引き締めています。

CSVの先にある未来を社員参加型で描くことが大切

ピーダーセン:本日は、さまざまなお話を伺いましたが、CSVの取り組みはすばらしいと思いました。やはり今後期待したいのは、アサヒ飲料が目指す社会のイメージ、未来像や達成像を明確に示していただくことです。イノベーションによる価値創造の終着点と言ってもいいかもしれません。持続可能性だけではなく、社会を良い方向へ変革し、傷ついてしまった地球環境を修復するリジェネレーションをも志向する会社であるためにはどうあるべきか。CSVの先にある未来を社員参加型で描いていただきたいと思います。

米女:ありがとうございます。持続可能性を超えて回復や再生まで追求するレジリエンスやリジェネレーションの考え方はとても重要だと改めて思いました。私たちアサヒ飲料が、CSVの取り組みによって社会に何ができるかを考えたときに、現状からの回復・再生までを含めて未来の「あるべき社会像」を描き、その世界を実現するために取り組んでいくことが必要なのだと感じました。

ピーダーセン:私は、ずっと時代の変化を見てきましたが、2020年代に入り、サステナビリティやCSVが本当の意味で世界のデファクトスタンダードになったと考えています。こうした時代のベクトルの上にトレードオン型のイノベーションをいかに起こしていくか、それが財務的価値・非財務的価値という概念を超えて強いブランドを作っていくのではないでしょうか。本日は、アサヒ飲料がそのポテンシャルをおもちであることを確信できたように思います。

米女:これまでの100年は「お客様にとっての価値とはなにか」を追いかけ、実践してきた100年でした。この先の100年は、お客様の背後にある社会にも視点を広げて、よりソーシャルな視点からグローバルレベルの課題解決にも貢献していきたいと考えています。そして、私たちが目指す未来につながる新たな価値を創造し、「社会でいちばん信頼される企業」であり続けたいと思います。

3つのマテリアリティの事例については
コチラをご覧ください。

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