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2019年7月31日更新

アサヒ飲料が掲げるビジョン「社会の新たな価値を創造し、我々の『つなげる力』で発展させ、いちばん信頼される企業となる」。
その実現に向けた取り組みについて、消費者行動論、流通システム論を専門分野とする
高岡美佳氏をお迎えし、当社 代表取締役社長 岸上克彦と対談を行いました。

お客様に身近な存在だからこそ
提供できる価値

岸上 アサヒ飲料を含むアサヒグループは、グループ理念『Asahi Group Philosophy(AGP)』を定めており、その中で『Our Mission(社会における使命・存在価値)』として『期待を超えるおいしさ、楽しい生活文化の創造』を掲げています。このAGPを受けて、私たちアサヒ飲料は「社会の新たな価値を創造し、我々の『つなげる力』で発展させ、いちばん信頼される企業となる」というビジョンの実現に向けて取り組んでいます。活動の中で特に大切にしているのは、財務的価値と社会的価値を両輪として回していくという考え方です。財務的価値を追い求めながら、社会的価値も生みだしていく、それを実現できる企業を目指しています。

高岡 そのあり方は非常に理想的ですが、実現するのはなかなか難しいものでもありますね。まず、財務的価値と社会的価値の一体化を実現できる商品やサービスを提供することが求められます。その先に、そういった価値にまだ気付いていない個人に対する提案が必要になりますね。「アサヒ飲料の商品・サービスを使うことで、あなたの暮らしが健康で環境にも良いものになりますよ」という提案をしていくこともまた、企業としての使命だと感じます。

岸上 私たちのビジネスは、お客様の日常に密接なものですから、「身近なところから健康や環境を考えませんか」とアプローチできる強みがあります。企業の環境や社会への取り組みに関してお客様から目を向けられる機会も増えていますから、私たちがより成長・発展していくためには社会との共存共栄を考えていかなければならないと感じています。

お客様への約束
『100年のワクワクと笑顔を。』

高岡 飲みものは、日常の中でさまざまな役割を担っていますよね。健康を意識して飲むこともあるし、仕事が終わって「今日はおいしいもの、甘いものをごほうびとして飲もう」というような楽しみ方もあります。また、誰かに薦めたり一緒に飲むなど、飲みものを通じた人と人とのコミュニケーションにも使えます。

高岡 美佳 氏立教大学経営学部教授・博士(経済学)。専門は小売経営論、フランチャイズシステム論、サステナブルコミュニケーションと消費者行動。産業構造審議会地球環境小委員会評価・検証WG(低炭素社会実行計画フォローアップ)などを務める。

岸上 飲みものの基本的な機能は止渇、つまりのどを潤すことです。しかしお客様のニーズは多様化しており、ビジネスとしてそれに応える商品・サービスを提供していく必要があります。そこで2019年1月に、私たちはお客様との約束として『100年のワクワクと笑顔を。』というスローガンを制定しました。100年というフレーズには、人生100年時代という意味に加えて、日本生まれ・日本育ちの一世紀ブランドをつないできたという自負も込めています。「カルピス」は今年100周年を迎えました。また、「ウィルキンソン」は115年、「三ツ矢」は135年を超える歴史があり、これだけのブランドを有しているのは飲料業界でも私たちだけなのです。100年をひとつの区切りとして、私たち自身もワクワク感をもちながら、おいしく笑顔で飲んでいただける飲料をお届けする。そんな思いを込めました。

高岡 これはとても良いコンセプトですよね。アサヒ飲料の商品は、「三ツ矢サイダー」や「カルピス」など、子どもが笑顔でいるような親しみやすいイメージがあります。学生からも「『十六茶』はカフェインゼロだから」という理由で積極的に選ぶという意見がありました。

岸上 健康価値は、飲料がお客様に提供する基本的な価値のひとつです。「十六茶」はカフェインが入っていないお茶の先駆者ですし、「ウィルキンソン タンサン」は無糖・透明でスカッとリフレッシュできる。そういった幅広い健康価値・機能を失わないことが、私たちにとって大切だと考えています。

マテリアリティ領域の
掛け合わせで価値を向上

岸上 私たちが取り組むべき重点テーマとして、今お話しした『健康』に『環境』『コミュニティパートナーシップ』を加えた3つをアサヒ飲料のマテリアリティ、『食育』『サプライチェーンマネジメント』の2つをサブマテリアリティとしています。そして、これらをそれぞれ掛け合わせることができるというのが、アサヒ飲料の強みだと考えています。
例えば、『健康』×『コミュニティパートナーシップ』の掛け合わせの取り組みとして、私たちの工場がある富山県入善町では、児童・生徒、学校の先生、保育士の方などに、2ヵ月間にわたって毎日1本ずつ、「L-92乳酸菌」を含む乳性飲料「守る働く乳酸菌」をお配りし、飲み続けていただきました。すると、受験シーズンを含む年末年始の体調管理の助けになったという声だけでなく、「町の子どもたちが手洗い・うがいなど、健康な生活のためにできることを考えるようになった」と町長からもお言葉をいただいています。ほかにも、神奈川県の「未病プロジェクト」の啓発支援を目的として自動販売機に未病のマークをラッピングしたり、「十六茶」にマークをつけて販売する活動などにも取り組んでいます。もちろん全国向けに発信している情報もありますが、各地の自治体やコミュニティと一緒に活動し、住民一人ひとりの健康意識の醸成を図っていくことが、私たちにとっても地域にとってもプラスになると思っています。このようにマテリアリティを掛け合わせることで生みだす価値を大きくしていきたいと考えています。

高岡 テレビや雑誌などではさらっと流してしまう情報も、自分が暮らしている地域のイベントや自動販売機で接すると、やってみようかなという気になりますね。

岸上 『環境』の側面でアサヒ飲料らしい取り組みとして、ラベルレスボトルの例があります。ラベルを外すだけじゃないかと思われがちなのですが、ラベルをはがす手間を省くだけでなく、廃棄物の削減にもつながります。一方で、飲料には法律で定められた表示が必要です。「1本ずつではなく、箱でひとつの商品として扱い、箱に法定表記をする」というイノベーションが社内から出てきた後も、関係省庁への説明や調整が必要で、2年ほどかかりました。まずはイーコマースから販売を開始して、認知が広がったところで小売の店頭でも箱で販売できるようになればと考えています。

高岡 これは大変画期的です。ラベルがないだけで90%樹脂量が減るだけでなく、ラベルをはがすストレスを減らすことにもつながっています。環境にいいことと分かっていても、毎日のことだと分別疲れを感じたりしますし、ラベルをはがすときに爪が傷むことを気にする方もいますから、少しでも手間がかかると「もういいや、1本ぐらいラベルをはがさなくても大丈夫だろう」という気持ちになりかねません。

岸上 そういった意味で、人にも環境にも優しい商品になっていますね。2019年には「持続可能な容器包装」に向けた取り組みとして『容器包装2030』を宣言し、リサイクルPET や環境配慮素材などの使用、ラベルレスボトルを含むリデュース、環境に配慮した新容器の開発について目標を定めました。これらは私たち1社でできることだけでなく、関係省庁や包材メーカー、流通などと力を合わせて進めていかなくてはと考えています。

ブランドのもつ力、
一人ひとりの社員の力

岸上 『コミュニティパートナーシップ』でも、さまざまな活動に取り組んでいます。ひなまつり時期には、50年以上にわたり、幼稚園・保育園に「カルピス」をプレゼントするほか、2007年からは社員による絵本の読み聞かせを行なっています。また、100年ブランドの魅力を社員自らが伝える活動として、3月28日(「三ツ矢」の日)と7月7日(「カルピス」の誕生日)の前後には、1,000名を超える社員が店頭に立つサンプリングイベントを行なっています。
普段オフィスや工場に勤務していてお客様との接点がない社員も、この場で商品を手にしたお客様の笑顔にふれることで、のどの渇きを癒すだけではない価値を社会に届けていることを感じているのではないでしょうか。そして、財務的価値と社会的価値を両輪で回すことの大切さを社員自身があらためて認識する場にもなっています。特に、今年は「カルピス」100周年ということもあり、次の100年につながるよう、ブランドの価値をお客様に伝える機会を多く創出しています。

高岡 「カルピス」って、甘酸っぱい味もありますし、小さい時に母親がつくってくれたり、親に内緒でこっそり濃いめにつくって飲んだりと、幼いころの思い出や家族との記憶にも結びついていますね。

岸上 子どもの時に「カルピス」をつくってもらって飲んでいた人たちが、成長するごとに「カルピスウォーター」や「カルピスソーダ」などの商品にふれ、さらに年を重ねると機能性のある「カラダカルピス」を飲む。そして、孫ができるとまた「カルピス」をつくってあげたくなる。そんな一生涯お客様に寄り添い、世代を越えてブランドが循環していくのも「カルピス」というブランドならではだと思っています。

高岡 おいしくて健康に良くて、一緒に飲む楽しさもあるというのは、ブランド価値の大きさを感じます。ぜひこれからの100年、そしてその後も同じように続いていてほしいですね。

岸上 これから先も会社が持続的に成長するためには、価値観の違う社員たちが、切磋琢磨しながらも一緒に働き、会社を活性化していくことが大切です。

高岡 ダイバーシティを認めて一人ひとりの価値を尊重するためには、トップマネジメントや社長の考え方が大きく影響すると思います。

岸上 私自身、営業や生産、マーケティングなどさまざまな部門の現場を訪れて、直接、考えを伝える機会をもつようにしています。また、ダイバーシティという観点でいうと、営業部門やマーケティング部門などさまざまな部門で女性が活躍しています。先にお話ししたラベルレスの開発者も女性社員です。当社には、男女の差がなく活躍できる風土があると思っています。

高岡 お話をお伺いしていると、社会的要請をコストだと考える企業もまだある中で、そこにビジネスチャンスを見出し、人々の思いをつなぐツールにも、社員が働くモチベーションにもなると考えていらっしゃる点にとても安心しました。飲みものを扱う以上、安全や健康という価値は不可欠ですし、容器に入っているものですから環境性も外せない要素です。それらを全国規模だけでなく、地域とともに進めているというのも重要な視点です。今後は、社会の変化や要請に合わせてマテリアリティを見直すことも必要なのではないでしょうか。

岸上 おっしゃっていただいたとおり、現在、5つのマテリアリティで活動していますが、お客様の課題感や社会の変化に合わせて、その時々でマテリアリティを設定し、さまざまなニーズに応えていくことが重要だと考えています。「いちばん信頼される企業」になるために、財務的価値と社会的価値を両輪で成長させていくことをこれからも追求し続けていきます。