小学生向け出前授業「『カルピス』こども乳酸菌研究所」
飲み物を通じて科学的性質への関心を引き出し
キャリア教育としての一面をもっていることを確認
日本理科教育学会第67回大会(8月5~6日/福岡)にて発表

研究・技術

2017.08.28

 アサヒ飲料株式会社(本社 東京、社長 岸上 克彦)は、白百合女子大学との共同研究により、小学生向け出前授業「『カルピス』こども乳酸菌研究所」が、越境的活動※1としての効果によって、身近なものの科学的性質や理科そのものに対する関心を引き出し、キャリア教育としての一面をもっていることが示唆されました。この研究結果を日本理科教育学会第67回大会(2017年8月5~6日)で発表しました。

【背景】

 近年、科学技術と我々の生活の関わりはますます深くなってきているものの、国民の科学技術に対する関心は、若者を中心に低下の傾向にあるといわれています。
 当社では、CSR活動の一環として、"乳酸菌と発酵"をテーマに食の大切さを伝え、未来への夢を社員とのディスカッションにより考える小学生向け出前授業を実施しています。この出前授業が、子どもたちの科学への知的好奇心喚起の一助となることをめざし、本活動が子どもの学びや心理に与える影響を、発達心理学・教育心理学的アプローチを用いた手法により検証し評価する研究に取り組んでいます。
 今回、白百合女子大学との共同研究として行った出前授業について、参加した小学生を対象に事前・事後にプログラム全体の評価や理科、実験に対する意識の変化を調査し、越境的活動として特徴づけられる出前授業がもたらす普遍的な学びの成果について、当社が実施している小学校での出前授業や科学館等でのイベントの調査結果と比較しながら、検証しました。

【結果】

  • 「『カルピス』こども乳酸菌研究所」の授業内容に対して、参加した子ども達は大変高い満足度を示す結果となりました。
  • 「『カルピス』こども乳酸菌研究所」の活動が、参加した子ども達に、身近なものの科学的性質や、理科そのものに対する関心を引き出していることがわかりました。
  • 出前授業がキャリア教育として価値がある一面をもっていることが示唆されました。

【まとめ】

 「『カルピス』こども乳酸菌研究所」の授業内容は、小学校、イベントで実施の場合も含めて高い満足度を示す結果となりました。その理由として乳酸菌や酵母について見聞きし、さらに発酵という作用について学ぶことができた点などがあげられ、身近な飲み物が観察・実験の素材として子どもたちの興味を引き出し、科学的な方法で探究することにより、新たな発見につながっていることがわかりました。さらに学校・企業・大学が出前授業という場においてそれぞれ越境し、交流する活動によって児童のキャリア教育の一面としての効果があることも示唆されました。

※1越境的活動 学校と社会の境を越えて学びを生みだす活動。

【調査概要】

1.白百合女子大学版「『カルピス』こども乳酸菌研究所」での質問紙調査※2
対象者 小学生12名(6年生1名、5年生1名、4年生10名)とその保護者
方法 小学校での実施内容と同じプログラムを白百合女子大学版として、講師はアサヒ飲料社員が務め、少人数ごとにアシスタントとして1名つく通称〝はかせ〟は小学校教職課程履修者の学生が務め実施。実施後、参加した小学生(事前・事後)、その保護者、実施に携わった大学生に質問紙調査、インタビュー調査等を実施し分析
2.アサヒ飲料版「『カルピス』こども乳酸菌研究所」での質問紙調査
対象者 2016年に実施時に参加した小学4~6年生4校99名(実施4校より無作為抽出)
科学館等のイベントに参加した小学4~6年生60名
方法 授業終了後に質問紙調査を行い、興味をもった活動等を分析

※2質問紙調査 心理学研究における定量調査の手段の一つ。

【結果の詳細】

1.「『カルピス』こども乳酸菌研究所」の「授業内容の楽しさ」「講師に対する評価」などの事後評価は大変高い満足度を表わす結果となりました。

 白百合女子大学版の事後に行った調査では、「授業内容の楽しさ」について参加した児童全員(100%)が肯定的な回答をしており、この結果は、小学校(93.9%)、イベント(93.3%)の結果と共通して、たいへん高くなりました。(図1)
 また、「講師に対する評価」も全員(100%)が「わかりやすかった」と回答しており、小学校(88.9%)、イベント(90%)の結果と共通して、たいへん高い満足度を表す結果となりました。(図2)

図1.『「カルピス」こども乳酸菌研究所』は楽しかったですか?
図2.前でお話した先生の説明は分かりやすかったですか?

2.「『カルピス』こども乳酸菌研究所」の活動が身近なものの科学的性質や、理科そのものに対する関心をひきだしていることがわかりました。

 事前調査の結果に対して事後調査では同じ項目に対する反応がほとんどの参加者、ほとんどの項目で、有意に高まっていました。「学校のいつもの授業との違い」に関する質問では、「学校では詳しくやらない」「乳酸菌や酵母について詳しく学ぶことができた」と述べている児童もみられました。これらの意見から、科学的探究一般への関心を高める結果をもたらす可能性があると考えられます。また、「味の比較ができた」と述べた児童も含まれており、味覚も含めた五感に訴える体験が、理科への関心といった抽象的、普遍的なものに転化していく可能性があると考えられます。

【事前・事後調査の検定】

 以下の項目について対応のあるt検定を行った結果、5項目すべてに有意な差が見られました。

事前・事後調査の検定

[項目一覧]

  • 理科に興味はありますか
  • 「実験が好き」という気持ちはありますか
  • 『カルピス』などの身近な飲み物や食べ物がどのようにつくられているか興味がありますか
  • 自分で何かを研究したり、発明をしたりしたいという思いがありますか
  • 将来自分がどんなことをしたいか、考えることはありますか
    (選択肢:1.まったくない~7.ものすごくある)

3.イベントとして実施している場合と小学校での出前授業として実施する場合で、活動の 意義に異なる側面が見られ、出前授業がキャリア教育としての一面をもっていることが 示唆されました。

 白百合女子大学版での「楽しかった内容」では、最も多い選択が「pH試験紙による実験」、次いで「顕微鏡を使った乳酸菌観察」「種類の異なる乳酸菌を使ったヨーグルト比較」となりました。また、小学校とイベントを比較すると、小学校では「はかせ(社員)の話」、「未来へのアイデアを考えよう」が選ばれる傾向が強くなりました。小学校では、白百合女子大学版を含めたイベントの場合と同様、子供たちが科学者の視点で実験や観察を体験することが楽しく感じられるほか、社員と対話したり思考したりと、アクティブラーニングにも通じる体験が興味を惹きつけています。

 一方、白百合女子大学版を含めたイベントではサイエンスに興味をもった子供たちが、本物にふれることでより興味を深める体験につながっています。体験する場が異なっても、それぞれの知的好奇心を喚起し、幅広い子どもたちに対応できるプログラムと言えます。

楽しかった内容

【考察】

 小学生向け出前授業「『カルピス』こども乳酸菌研究所」が、身近なものの科学的性質や理科そのものに対する関心を引き出すことが明らかにされ、キャリア教育としての一面をもっていることが示唆されました。これは、企業が自社の知見を活かした出前授業を行うことによって、社会生活や職業生活への橋渡しとなり、学校の中で閉じてしまいがちな学びに対して、学校と社会の境を越えて新たな発達の可能性を生みだす越境的な活動をもたらすためと考えられます。
 つまり、学校の教育現場では基本的には〝できなかったことができるようになること〟が主に問題とされますが、「『カルピス』こども乳酸菌研究所」では〝すでにできることが、異なる活動に参加することで、新たな可能性が開かれること〟をもたらすと考えられるのです。
 さらに、社員が参加し、飲み物の開発・生産・販売などに携わっている大人が自分たちの仕事に関わる内容を伝えながら授業を実施し、乳酸菌や商品を通して社会に貢献していこうとする姿から、子供たちが学校で学んでいることが社会でどのようにして役立ち、活用されていくのかを感じることにつながっています。また、キャリア教育の一側面を担う意義が期待されます。

【共同研究者のコメント】

宮下先生

白百合女子大学

人間総合学部教授。初等教育学科長、人間総合学部長
宮下孝広(みやした たかひろ)氏

理科への興味をかきたて科学的探究につながる活動

 「『カルピス』こども乳酸菌研究所プロジェクト」は、アサヒ飲料株式会社がCSR活動として行っている小学校高学年対象の出前授業プログラムのひとつであり、社会的にも高く評価されている活動です。白百合女子大学との共同研究を通じて、この活動に参加した子ども達に、どのような効果が生じるのかを評価したところ、以下のような知見が得られました。
 まず、身近にある飲み物や食べ物がどのように作られているかに対する興味を抱かせます。普段何気なく口にしている「カルピス」が、発酵という現象によって作られていること、それを担っている乳酸菌や酵母といった微生物の働きに目を向けることなど、普通であれば見逃してしまっている関心が掘り起こされていくのです。
 このことは目の前にある事柄に止まりません。この活動をきっかけにして理科への興味をかきたて、実験や観察といった科学的な方法で身の回りにある物事を調べてみたいという科学的探究の入り口に子どもたちを立たせることにつながります。
 そして、将来の自分や、同世代の仲間たちが担う未来の世界に対して想いを馳せ、なかには自ら研究や発明といった活動に身を投じて、新しい世界を支える物作りにチャレンジして、人のために尽くしたいと考える子どもの気持ちを引き出すようです。

参考

【「『カルピス』こども乳酸菌研究所」について】

 『「カルピス」こども乳酸菌研究所』は、「カルピス」を通じて〝絆と笑顔を未来へ届けたい〟という思いを、社員自らの行動で実現していく活動です。社員が講師となり"乳酸菌と発酵"をテーマに「食」の大切さを伝え、ゼロから新しいものをつくりだす可能性やコミュニケーションの中で様々な「職」が存在することを伝えます。最後には、こどもたちの未来への「夢」を社員とのディスカッションにより考える小学生向け出前授業です。
 プログラム内容は食育・理科・キャリア教育が複合的に学べる出前授業となっており、参加者社員は役員から新入社員までが参加しています。2016年度はアサヒ飲料社だけでなく、アサヒグループ各社の社員も参加し、総勢191名の社員が参加し、事業所近隣の27校、約1,789人の児童を対象に実施しました。

主な実施エリア 東京、神奈川、北海道、宮城、群馬、埼玉、茨城、愛知、大阪、岡山、香川、福岡
対象 小学校4~6年生
プログラム概要(90分授業)  
  • レクチャー:乳酸菌や微生物の働き、「カルピス」の味を作りだすしくみ等
  • DVD視聴 :製造工程、「カルピス」誕生のストーリー
  • 体 験:牛乳と発酵乳の比較(味、かおり)、乳酸菌の顕微鏡観察、乳酸菌の酸度比較(pH試験紙使用)等
  • 未来ディスカッション:笑顔あふれる未来のために“こんな乳酸菌を発見したい”という夢を自由に想像し、グループ・全体で発表する。
参加メンバー 本社、研究所、工場、営業部門など、幅広い分野の社員が社内公募により参加

【これまでの小学生向け出前授業の取り組み】

  学校数
(校)
児童数
(名)
 
2007年度 1 31 経済産業省「理科実験教室プロジェクト」に参加
2008年度 1 56  
2009年度 8 420 食育をテーマとした出前授業「乳酸菌スクール」を開始
2010年度 4 310  
2011年度 6 379  
2012年度 2 176 「教育CSR大賞」大賞受賞
2013年度 19 1,357 「『カルピス』こども乳酸菌研究所」を開始、「中高生が選ぶ教育CSR大賞」大賞、「教育CSR大賞」部門賞受賞
2014年度 31 1,881 平成26年度「青少年の体験活動推進企業表彰」(主催:文部科学省)審査委員会奨励賞受賞、「中高生が選ぶ教育CSR大賞」大賞他受賞
2015年度 24 1,715 「教育応援グランプリ」金賞受賞
2016年度 27 1,789 「教育応援グランプリ」プラチナ賞、小学生審査員賞をW受賞
合計 123 8,114  

2013年度の実績は、「乳酸菌スクール」「『カルピス』こども乳酸菌研究所」の合計

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